外国人社員を採用し、現場でOJTを始めたものの、こんな悩みはないでしょうか。
「一度教えたのに、同じミスが繰り返される」「マニュアルは用意しているのに、なかなか一人で任せられない」「長く働いているが、いつまでも教育される側から抜け出せない」。
こうした状況になると、「日本語力が足りない」「本人の理解力に問題がある」と考えてしまいがちです。
しかし株式会社yuが、製造業、外食、介護など外国人材を雇用する企業へのヒアリングを重ねてきた中では、少し違った実態が見えてきました。
8カ国語のマニュアルを整備しても伝わらない。作業自体は覚えても「なぜその仕事が必要なのか」が理解されない。本人は「できている」と思っていても、上司から見ると期待水準に届いていない。教材を渡しても、その先は本人の自主学習任せになっている。
つまり、外国人社員のOJTで重要なのは、単に「分かりやすく教えること」だけではありません。
「教える → 理解を確認する → 評価をすり合わせる → 任せる範囲を広げる → 今度は本人が教える側に回る」までを、一つの育成プロセスとして設計することが重要です。
この記事では、yuが企業へのヒアリングから得た一次情報を交えながら、外国人社員のOJTを戦力化につなげるための5つのポイントを解説します。
外国人社員のOJTがうまくいかないのは「言葉」だけが原因ではない
外国人社員へのOJTというと、まず「日本語を分かりやすくする」「マニュアルを多言語化する」といった対策が思い浮かびます。
もちろん、こうした工夫は重要です。しかし、翻訳やマニュアルだけでは解決しない問題もあります。
yuがヒアリングしたある大手外食企業では、8カ国語に対応したタブレット型のマニュアルを整備していました。それでも現場では、「1を伝えても0.1しか伝わらない」と感じることがあり、日本独自の接客のニュアンスや価値観を伝えることに苦労しているといいます。
また、別の食品・化粧品製造企業では、外国人社員向けに英語のマニュアルを自作していました。しかし、翻訳によって「何をするか(What)」は伝わっても、「なぜそうするのか(Why)」まで理解してもらうことが難しく、同じミスが繰り返されることがありました。
さらに介護施設では、作業手順そのものは習得できている一方で、「なぜこのケアが必要なのか」「利用者を尊重するとはどういうことなのか」という背景理解との間にギャップが生じていました。
業界は違っても、共通しているのは、「作業を覚えること」と「仕事を理解して自律的に行えること」は別物だという点です。
企業ヒアリングから見えた「OJTが止まる5つの壁」
| 壁 | 現場で起きていたこと | OJTで必要なこと |
|---|---|---|
| ① 背景理解 | 手順は覚えても「なぜ」が分からない | 目的・理由・影響まで伝える |
| ② 理解確認 | マニュアルを渡しただけで理解した前提になる | 本人に実演・説明してもらう |
| ③ 評価ギャップ | 本人の自己評価と上司評価がずれている | 短いサイクルで現在地を共有する |
| ④ 役割設計 | 同じ仕事を続け、次の目標が見えない | 次に任せる役割から育成を逆算する |
| ⑤ 属人化 | 特定の先輩・通訳・担当者しか教えられない | 本人を次の「教える側」へ育てる |
外国人社員のOJTを成功させる5つのポイント
1.「何をするか」だけでなく「なぜするか」を伝える
第一に必要なのは、作業手順だけでなく、その仕事の目的や背景まで伝えることです。
たとえば「ここまできれいにしてください」という指示であれば、単に完成形を示すだけでなく、「なぜこの汚れが残ってはいけないのか」「残っていた場合、顧客や品質にどんな影響が出るのか」まで伝えます。
これは外国人社員だけに必要なことではありません。しかし、日本人社員同士では共有されている「常識」や「暗黙の前提」が、異なる国・文化で育った社員には共有されていない可能性があります。
重要なのは「外国人は文化が違う」と大きく括ることではなく、自社の仕事で求める基準と、その理由を具体的に言語化することです。
「しっかり」「普通に」「なるべく早く」といった曖昧な言葉だけでなく、完成状態、期限、判断基準、守らなかった場合の影響まで説明することで、自分で判断できる範囲が広がります。
2.「分かりました」で終わらず、理解したことを確認する
二つ目は、説明したことと、理解されたことを分けて考えることです。
外国人社員が「分かりました」と答えたからといって、必ずしも仕事の意味まで理解できているとは限りません。質問の意味が十分に分からなかった、上司に「分からない」と言いづらかった、といった可能性もあります。
そこで、説明の後に本人自身に作業をやってもらうだけでなく、「次に自分一人でやるとしたら、どこに気をつけますか?」など、自分の言葉で説明してもらう方法が有効です。
理解できていなければ、そこで初めて説明方法を変えます。文章で難しければ写真や図、実演を使う。日本語が難しければ簡単な日本語や母語も補助的に使う。
大切なのは、マニュアルの有無や研修を実施した回数ではなく、本人が再現できる状態になったかを確認することです。
3.OJTとフィードバックをセットにし、評価のズレを小さくする
三つ目は、OJTの中に短いフィードバックを組み込むことです。
yuがヒアリングしたある介護施設では、外国人スタッフが自己評価で「100点」と考えていても、会社側の評価は「50〜60点」というケースがありました。
問題なのは点数そのものではありません。本人が「十分できている」と思っている一方、会社は「まだ任せられない」と考えている状態が長く続くことです。
この状態で半年後の評価面談まで何も伝えなければ、本人からすると突然低い評価を受けたように感じます。
同施設では、忙しい現場管理者が指導を後回しにしないよう、評価制度と面談を紐づけ、伝えるべきことを伝える場をあえて設けていました。
OJTでも同じです。「今日はここまで一人でできた」「ここはまだ確認が必要」「ここまでできたら次の仕事を任せる」と、小さなフィードバックを積み重ねます。
こうすることで、本人と上司の現在地の認識が揃い、「何をできるようになれば次に進めるのか」が見えやすくなります。
4.目の前の作業ではなく「次に任せる役割」からOJTを逆算する
四つ目は、OJTのゴールを「今の仕事を覚えること」だけに置かないことです。
外国人社員が長く働いていても、毎年同じ仕事をしているだけでは、会社にとっても本人にとっても成長の実感が得にくくなります。
yuがヒアリングした製造業企業では、特定技能1号から2号への移行に向けて会社が教材を提供しているものの、学習そのものは本人の自主性に依存しており、模擬試験など体系的な育成まで整備できていないという課題がありました。
一方で、別の企業では外国人社員が日本人社員ともコミュニケーションを取りながら、上司としてチームを率いるところまで成長しています。
両者の違いを考えると、OJTで重要なのは「今できないことを教える」だけではなく、半年後・1年後に何を任せたいかを先に決めることです。
一つの工程を一人で任せる、品質確認を任せる、新人の質問対応を任せる、後輩を指導する、チームをまとめる。次の役割を決めれば、OJTで何を経験させるべきかも具体的になります。
JETROも、高度外国人材の育成・定着において、キャリアプランの提示や評価・フィードバックの整備を重要なテーマとして挙げています。JETRO「育成定着・キャリアプラン設計」
5.「教わる外国人社員」から「教える外国人社員」へ移行させる
五つ目は、OJTの最終地点を「一人で仕事ができる」で終わらせないことです。
yuがヒアリングしたある企業では、特定技能2号の先輩外国人材を、新しく採用する外国人材の面接にも参加させています。
自分が選考に関わった後輩であるため、先輩側に「自分が選んだ人」という当事者意識が生まれ、入社後の面倒見も良くなるという実践です。後輩にとっても、同じ国の先輩が身近なロールモデルになります。
別の大手製造業では、現場の日本人社員と新しく入る外国人社員の間をつなぐ、既存の外国人リーダーの存在が、そもそも現場教育を成立させる条件になっていました。
こうした「つなぎ役」は非常に有効です。しかし、一人の優秀な外国人社員だけに頼り続ければ、今度はその人への属人化が起きます。
だからこそ、OJTでは、仕事を覚えた人を順番に「次の人を教えられる人」に育てていく必要があります。
「日本人が外国人に教え続ける組織」から、「育った外国人社員が次の外国人社員や日本人社員にも教えられる組織」へ移行できるか。ここまで進んで初めて、外国人材が増えても教育力が積み上がっていきます。
yuが考える外国人社員OJTの5段階
ここまでの企業ヒアリングを横断すると、外国人社員のOJTは次のような流れで考えると整理しやすくなります。
| 段階 | 状態 | 会社側が行うこと |
|---|---|---|
| ① 教える | 仕事の手順を知る | WhatだけでなくWhy・完成基準を伝える |
| ② 確認する | 自分で再現できる | 実演・本人の説明で理解度を確認する |
| ③ すり合わせる | 自分の現在地が分かる | 短いサイクルでフィードバックする |
| ④ 任せる | 担当できる役割が広がる | 次の役割を決め、実践機会を与える |
| ⑤ 教える側にする | 周囲の成長にも貢献する | 後輩指導やリーダー役を任せる |
この5段階を見ると、外国人社員の戦力化は「日本語研修を増やす」「マニュアルを作る」といった一つの施策だけでは進まないことが分かります。
yuでは、外国人材の戦力化を考える際、役割・キャリア設計、評価・フィードバック、育成・学習支援、実践機会・職場受容を一体で捉えることが重要だと考えています。
OJTは、その4つを現場でつなぐ役割を担います。
OJTを特定の担当者の「頑張り」にしない
もう一つ、企業へのヒアリングで繰り返し出てきたのが「属人化」の問題です。
外国人社員の相談、教育、通訳、生活支援などを、外国人対応に詳しい一人の担当者や、面倒見の良い先輩社員が抱えている企業は少なくありません。
少人数のうちは、それでも回ります。しかし外国人社員の人数や国籍が増えたとき、その担当者が不在になったとき、一気に運用が難しくなります。
逆に、外国人材の受け入れが進んでいる企業では、緊急時対応を複数人の当番制にするなど、一人に依存しない仕組みをつくっている事例もありました。
OJTについても、「誰が、何を、どこまで教えたか」「次に何を任せるか」を最低限共有しておくことで、特定の教育担当者だけの仕事から会社の育成プロセスへ変えることができます。
関連記事:外国人社員の受け入れ体制とは?定着・戦力化と組織化で考える
2027年の育成就労制度開始で「どう育てるか」はさらに重要になる
外国人社員を「採用した後、どう育てるか」という論点は、今後さらに重要になります。
2027年4月1日には、技能実習制度を発展的に解消し、人手不足分野における「人材育成」と「人材確保」を目的とする育成就労制度が施行されます。
制度では、原則3年間の就労を通じて人材を育成することが想定されています。
これは、企業に特定のOJT方法を求めるものではありません。しかし、「外国人に働いてもらう」だけでなく、就労を通じてどのように成長してもらうのかを考える重要性は、これまで以上に高まるでしょう。
制度の最新情報は、出入国在留管理庁および外国人技能実習機構の公式情報をご確認ください。
出入国在留管理庁「育成就労制度の制度概要・関係法令」
外国人技能実習機構「育成就労制度について」
まとめ|OJTのゴールを「教えなくてもできる」から「次の人を育てられる」へ
外国人社員へのOJTでは、やさしい日本語や多言語マニュアルも重要です。
しかし、企業へのヒアリングを横断すると、それだけでは解決できない壁が見えてきます。
「何をするか」だけでなく「なぜするか」を理解すること。本人と上司が現在地を共有すること。次に任せる役割を決めること。そして、育った外国人社員自身が次の社員を育てられる状態をつくること。
OJTのゴールを「教えなくても作業できる人」ではなく、「任せられる役割を広げ、やがて周囲の成長にも貢献できる人」に置くことで、OJTは単なる新人教育から外国人材の戦力化の仕組みに変わります。

