外国人社員が数年間働き、職場にも慣れてきた。それでも、任せている仕事は入社当初とあまり変わらない。
そんな状態になっていないでしょうか。
外国人社員の定着が進んだ企業では、次に「どう戦力化するか」という課題が出てきます。そのとき重要になるのが、キャリアパスの設計です。
ただし、ここでいうキャリアパスは、「3年後に主任、5年後に課長」と役職名を並べることだけではありません。また、育成就労から特定技能1号、2号へといった在留資格上の移行だけを指すものでもありません。
株式会社yuでは、外国人社員のキャリアパスを、「次にどの役割を任せるのか、そのために何をできるようになる必要があるのかを、評価・育成・処遇までつないだ道筋」と考えています。
この記事では、製造業、外食、介護など外国人材を雇用する企業へのヒアリングをもとに、外国人社員のキャリアパスを設計する方法を4つのステップで解説します。
この記事でわかること
- 外国人社員にキャリアパスが必要な理由
- キャリアパスを構成する「役割・評価・育成・処遇」の考え方
- 定着後の外国人社員を戦力化する4つのステップ
- 実際の企業ヒアリングから見えた、定着後の3つの状態
なぜ外国人社員にキャリアパスが必要なのか
外国人社員を採用した企業では、最初は「辞めずに働いてもらうこと」が大きな課題になります。
生活支援、日本語、職場への適応、人間関係などを整え、数年間働いてもらえるようになる。これは重要な成果です。
しかし、定着したからといって、必ずしも任せられる仕事が増えているとは限りません。
yuがヒアリングしたある鉄リサイクル業の中小企業では、外国人社員5名が1年半〜3年以上勤務し、日本語でも業務上のコミュニケーションに問題はありませんでした。会社もフォークリフトや重機などの資格取得を支援しています。
それでも、「指示された作業から先へ進まない」「単純作業から、重機操作や顧客対応を伴う中心的な仕事になかなか移れない」という課題がありました。
つまり、「長く働いている」「資格を取った」と「会社の中で担える役割が広がった」は別の話です。
JETROも、高度外国人材の定着においてキャリアプランの提示を重要とし、キャリアプランと実際の職務内容を結びつけて考える必要性を示しています。
外国人社員のキャリアパスは「4つの要素」で考える
キャリアパスを作るとき、役職だけを決めても十分ではありません。
企業へのヒアリングを横断すると、少なくとも次の4つをつなげて考える必要があります。
| 要素 | 決めること | 例 |
|---|---|---|
| ① 役割 | 次に何を任せるのか | 一人で工程を担当する、顧客対応をする、後輩を教える、チームをまとめる |
| ② 条件・評価 | 何ができれば次へ進めるのか | 業務習熟、資格、品質、安全、報連相、後輩指導など |
| ③ 育成 | その状態になるために何を経験するのか | OJT、資格取得、日本語学習、担当業務の拡大、リーダー研修 |
| ④ 処遇・運用 | 役割に見合う条件をどう整えるのか | 昇給・手当、権限、代替要員、不在時のバックアップなど |
ポイントは、この4つをバラバラにしないことです。
「資格を取ってください」と伝えても、その資格を取ることでどんな仕事を任されるのかが分からなければ、本人にとってキャリアの道筋にはなりません。
逆に「将来はリーダーになってほしい」と伝えても、何をできればリーダーになれるのか、どう評価されるのか、役割が増えたときに処遇がどう変わるのかが分からなければ、期待だけを伝えている状態になります。
外国人社員のキャリアパスを設計する4ステップ
1.まず「最終役職」ではなく、次に任せたい仕事を決める
最初から「5年後に管理職」といった大きなゴールを作る必要はありません。
まず考えたいのは、現在より一段上で、具体的にどんな仕事を任せたいかです。
たとえば製造現場なら、
- 指示された作業を一人で完結できる
- 複数の工程を担当できる
- 品質や安全の確認を任せられる
- 新人・後輩に仕事を教えられる
- 日本人社員を含むチームをまとめられる
というように、役割を少しずつ広げることができます。
yuがヒアリングした企業の中には、外国人社員がすでに日本人社員ともコミュニケーションを取りながら、上司としてチームを率いているケースもありました。
一方で、全員をリーダーにする必要はありません。専門技能を伸ばしたい人もいれば、後輩支援が得意な人もいます。
会社が必要とする役割と、本人が目指したい姿をすり合わせて、次の一段を決めることがスタートです。
2.「何ができれば次へ進めるか」を具体化する
次の役割が決まったら、その役割へ進む条件を決めます。
ここが曖昧だと、本人は「自分は十分できているのに、なぜ仕事を任せてもらえないのか」と感じ、会社側は「まだ任せられるレベルではない」と考えるという認識のズレが生まれます。
評価条件は、たとえば業務スキルだけでなく、安全、品質、報連相、問題発生時の対応、後輩への説明など、実際にその役割で必要な行動に落とし込みます。
JETROも、外国人社員の育成において評価制度を整備し、納得感のある評価とフィードバックを行うことを重要なテーマとして扱っています。
3.評価条件と、OJT・資格・学習機会をつなげる
三つ目は、「育成すること」そのものを目的にしないことです。
yuがヒアリングした製造業企業では、特定技能2号への移行を目指して会社が教材を用意しているものの、その後の学習は本人の自主性に依存しているという課題がありました。
別の企業では、資格取得自体は会社が支援しているものの、その資格がより高度な業務や責任ある役割へ十分につながっていないというケースもありました。
キャリアパスを設計するなら、
「次の役割」→「必要な能力」→「その能力を身につける経験・学習」
の順に逆算します。
たとえば、後輩指導を任せたいのであれば、本人が仕事をできるだけでは足りません。作業の理由を説明する、相手の理解を確認する、フィードバックするといった経験も必要です。
OJTはキャリアパスそのものではなく、次の役割に進むための手段の一つとして位置づけると整理しやすくなります。
4.役割だけでなく、処遇と「任せ続けられる体制」まで考える
最後に見落としやすいのが、処遇と会社側の運用です。
yuがヒアリングしたある中小企業では、外国人社員にもっと責任ある仕事を任せたいという現場側の意向がある一方、「責任を増やすのであれば、それに見合う給与も必要」という声がありました。
これは重要な論点です。
役割だけ増え、給与や評価が変わらなければ、本人にとってキャリアアップとは言いにくくなります。
また同社では、母国の家族事情などによって1〜2か月の長期帰国が発生する場合があり、不在時にそのポジションを誰が担うのかという理由から、責任者への登用をためらう実情もありました。
このケースが示しているのは、キャリアパスは本人の育成だけでは完成しないということです。
その人に役割を任せたとき、会社として継続的に運用できるかまで考える必要があります。
たとえば複数名が業務を代替できるようにする、権限を一人に集中させない、不在時の引き継ぎ方法を決めるなど、会社側の体制も同時に整えます。
企業ヒアリングで見えた「定着の先」の3つの状態
yuがこれまで行ってきた企業ヒアリングを横断すると、外国人社員が定着した後の状態は、大きく次のように分かれます。
| 状態 | 現場の例 | 次に考えること |
|---|---|---|
| 定着したが役割が広がらない | 数年勤務し、資格も取得しているが、単純作業や指示された業務が中心 | 次に任せる具体的な仕事と、その条件を決める |
| 周囲を支援できる | 後輩外国人材の相談・教育・採用などにも関わる | 「外国人の世話役」で止めず、業務上の役割も広げる |
| 組織のリーダーになる | 日本人社員も含むチームの上司・リーダーとして仕事を任される | 本人に依存しすぎない運用や、さらに先のキャリアを考える |
重要なのは、どの会社も一律に一番下の状態を目指せばよいわけではないことです。
企業規模、職種、本人の希望、在留資格によって、目指すキャリアは異なります。
たとえば専門職として能力を高める道もあれば、後輩育成を担う道、現場リーダーや管理職になる道もあります。
経済産業省が公開する外国人材向けハンドブックでも、外国人社員だけに特別な仕組みを作るのではなく、日本人を含む全社員が活躍できる組織づくりにつなげることが意識されています。
「外国人専用のキャリアパス」にしすぎない
外国人社員向けのキャリアパスを考える際、もう一つ注意したいのが、外国人だけを別枠として扱いすぎないことです。
JETROの事例には、日本人社員と同じ基準で評価しながら外国人社員が工場長まで成長した企業や、本人と相談しながらキャリアパスを設計している企業もあります。
会社の中で「外国人だからここまで」と線を引くのではなく、基本となる役割や評価の考え方は日本人社員とも可能な範囲で共通化し、そのうえで日本語学習や資格、在留資格など個別に必要な支援を組み合わせる考え方が一つの方向性です。
ただし、在留資格によって日本で行うことができる活動の範囲は異なります。新しい役割や職務を設計する際には、その業務が本人の在留資格で認められる範囲かを確認する必要があります。
まずは「半年後に何を任せたいか」から考える
キャリアパスという言葉を使うと、大掛かりな人事制度を作らなければならないように感じるかもしれません。
しかし、中小企業であれば、最初から5年・10年の詳細な制度を作る必要はありません。
まず一人の外国人社員について、
- 今、何を一人で任せられるか
- 半年後に、何を新しく任せたいか
- そのために何ができる必要があるか
- どんなOJT・資格・経験を用意するか
- 任せる役割が増えたとき、評価や処遇をどうするか
を整理するところから始められます。
そこで作った一人分の道筋を、実際の成長を見ながら修正していく方が、最初から完成された制度を作ろうとするより運用しやすいでしょう。
まとめ|キャリアパスは「次に任せる役割」からつくる
外国人社員のキャリアパスというと、役職表や在留資格上のステップをイメージしがちです。
しかし、企業へのヒアリングから見えてくるのは、より日常的な問題です。
長く働いているのに、仕事が変わらない。資格は取ったのに、任せられる役割が増えない。リーダーになってほしいと言われても、何をできればよいのか分からない。
こうした状態を変えるには、「次に任せる役割」を起点に、評価・育成・処遇・会社側の運用までを一つの道筋としてつなぐ必要があります。
定着した外国人社員に対して、「辞めないで働いてくれている」で止まるのではなく、「次に何を任せたいのか」を考える。
そこから、外国人社員の戦力化につながるキャリアパスづくりが始まります。

