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「言わないとやってくれないし、言えばすぐやってくれるよ」
【外国人との交流での失敗③】

2021年2月14日

 アメリカの大学院へ留学したいという切実な思いがあった。研究者としてのキャリアを考えるうえで、世界のスタンダードとなったアメリカの研究方法や、英語で自らの研究を発信できる能力は、是非とも身につけておきたいものである。そういう事情もあって、私にとってアメリカの大学院に行けるかいけないかは、人生を左右する程に重要な分かれ道であった。

 そのために、綿密な研究計画書を作成し難関と言われる研究費を獲得し、留学を希望していた大学の教授の日本講演を聞きに行き、心臓が飛び出る思いで話しかけて留学希望の旨を伝え、その後わざわざ一度渡米して研究室の授業を体験させてもらい、帰国してからは留学受け入れのための研究計画書類の作成や、TOEFLの基準スコアをクリアするため苦手な試験勉強に励んだ。

 そんなこんなでなんとか残すは先方の大学の事務が発行する受入証明書を携えて、米国大使館へビザを申請するだけという段階まで辿り着いた。だが、必要書類を事務にすべて提出して一週間が経ち、二週間が経ち、一か月が経っても受入証明書が来ない。私の感覚としてはアメリカの大学機関に書類を提出しているのだから信頼すべきで、こちらから確認や催促をするのは失礼ではないかと思っていたのだった。毎日メールボックスの更新ボタンを繰り返し押しながら、一日また一日と、もしかしたら書類の審査で落とされたのではとの思いも生まれ、留学には行けないのではという不安が積み重なっていった。

いよいよ米国大使館でのビザ申請から発行までの期間と出国日との兼ね合いがギリギリのタイミングになった。このままでこれまで準備してきたものがすべて水泡に帰してしまう。背に腹はかえられない思いで、先方の事務に連絡をした。

「留学用の必要書類、届いていますか?ビザ申請の為、受入証明書を頂きたいのですが…」

 返信はあっけないほどすぐに返ってきた。

 「あ、ごめん。忘れてた。今送りまーす。」

 すぐに受入証明書が送られてきた。

 ・・・。忘れてたって、あるの?私一人の特殊な書類でもないでしょ?私にとっては人生懸けた書類だよ?などなど居た堪れない思いが胸中に去来した。そんなことを愚痴りたくて、出国前に大学のアメリカ文学の先生の所に挨拶に行き、事の顛末をやや苛立ちながら話すと、先生は

「いやアメリカの大学といってもそんなもんですよ。言わないとやってくれないし、言えばすぐやってくれるよ。」

私にとっては人生を懸けた一通のメールだったが、向こう側では埋もれた記憶を思い起こすきっかけに過ぎなかった。でも、「そんなもん」だよな、とも納得できた。

自分の中の重要度と相手にとっての重要度は当然異なるものだ。自分にとって重要なら、「言わない」といけない。すると自分が思っているよりすんなりと、「言えばすぐやってくれるよ」。

              ◇◇◇

yuのメンバーが、自分のエピソードを交えて、「言語学習の経験」を紹介していきます。今回は「外国人との交流での失敗」について語ります。

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